フォトアルバム
Powered by Six Apart

« 10月3日 | メイン | 10月4日 »

2016年10月 6日 (木)

10月4日

NHKラジオ深夜便の今朝の3時台に再朗読。

「村の女は眠れない」   
            草野比佐男 (福島県の農民詩人) 

   女は腰を夫に預けて眠る 
   女は乳房を夫に預けて眠る 
   女は腰を夫にだかせて眠る 
   女は夫がそばにいることで安心して眠る

   夫に腰をとられないと女は眠れない 
   夫に乳房をゆだねないと女は眠れない 
   夫に腰をもまれないと女は眠れない 
   夫のぬくもりにつつまれないと女は眠れない

   村の女は眠れない 
   どんなに腕をのばしても夫に届かない 
   どんなに乳房が熱くみのっても夫に示(あ)かせない 
   どんなに腰を悶えさせても夫は応じない 
   夫が遠い飯場にいる女は眠れない

   (村の女は眠れない 
   眠れない夜ごとの夫への思いはつきない 
   沼のほとりの乾草小屋への記憶が遡って眠れない 
   あぐらの中に抱いて髪につく草くずを拾ってくれたぶきようで優しい指はここにはない 
   村の女は眠れない ひとりの夜は寒い

   村の女は眠れない 
   納戸を内側から錠をおろしても眠れない 
   だれの侵入を防ぐのでもない 
   熟れきったからだが戸を蹴破ってふぶきの外にとびだすのをおそれて眠れない 
   眠れない女を眠らす方法は一つしかない 
   ぴったりとからだを押しつけて腕を乳房を腰を愛して安心させてやるほかはない 
   そうしないかぎり女は眠れない 
   村の女は眠れない)

   村の夫たちよ 帰ってこい 
   それぞれの飯場を棄ててまっしぐらに眠れない女を眠らすために帰ってこい 
   横柄な現場のボスに洟ひっかけて出稼ぎはよしたと宣言してこい 
   男にとって大切なのは稼いで金を送ることではない

   女の夫たちよ 帰ってこい 
   一人のこらず帰ってこい 
   女が眠れない理由のみなもとを考えるために帰ってこい 
   女が眠れない高度経済成長の構造を知るために帰ってこい

   (帰ってこい 自分も眠るために帰ってこい 
   税金の督促状や農機具の領収書で目貼りした納戸で腹をすかしながら眠るために帰ってこい 
   胃の腑に怒りを装填するために帰ってこい 
   装填した怒りに眠れない女の火を移して気にくわない一切を吹っとばすために帰ってこい 
   女といっしょに満腹して眠れる日をとりもどすために帰ってこい 
   たたかうために帰ってこい)

   帰ってこい 帰ってこい 
   村の女は眠れない 
   夫が遠い飯場にいる女は眠れない 
   女が眠れない時代は許せない 
   許せない時代を許す心情の頽廃はいっそう許せない

いいね!他のリアクションを見る
コメントする
コメント
川崎 眞俊 大好きな村上 里和アナの朗読は素敵だったが、( )部分はカッとされていた・・・
川崎 眞俊 私にしては重過ぎて?コメントが無い・・・
齊野 みゆき まーささん、乙女にはコメントしづらいですがよ😅

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://app.synapse-blog.jp/t/trackback/300271/33958885

10月4日を参照しているブログ:

コメント

コメントを投稿